仮想ECU(vECU)
仮想ECU(Virtual ECU)とは、車載ECUのソフトウェアを実機のハードウェアなしでPCやクラウド上で実行できるようにしたものであり、含まれる量産コードの範囲に応じて、制御モデルだけのLevel 0から量産バイナリを命令セットシミュレータで動かすLevel 4までの段階に分けられる。
要点(Key Takeaways)
- 段階の定義は、業界団体 prostep ivip の推奨文書(PSI 11 V4.0 Part F、2025年5月)の Level 0〜4 が共通の参照になっている
- Level 4 は実機向けにコンパイルした量産バイナリをそのまま動かす。実行には命令セットシミュレータが必要で、実機用コードからの変更は「ほぼ不要」とされる
- 2026年10月時点の産業報告では、Level 4 の仮想ECUで4,632件のテストをクラウドで並列実行した例や、故障注入730件の51.8%が仮想ECUでしか実施できなかった例がある
- 一部のベンダーは Level 4 をさらに細分しているが、これは独自の拡張で業界の合意ではない。どの定義に拠るかを明示して使う
詳細解説
仮想ECUは、ECU(電子制御ユニット)のソフトウェアを、実機の基板やマイコンなしで計算機上で動かせるようにしたものである。どこまでを量産と同じコードで動かすかによって性質が大きく変わるため、段階に分けて呼ぶのが通例になっている。
prostep ivip の推奨文書(2025年5月)は、仮想ECUを Level 0〜4 の5段階に分ける。
| 段階 | 名称 | 含まれるもの |
|---|---|---|
| Level 0 | Controller Model | 制御モデル、またはそこから生成したコードのみ。量産コードも基盤ソフトも含まない |
| Level 1 | Application Level | アプリケーションの量産コード。下位層(RTE・OS)はシミュレーション用。信号レベルで通信 |
| Level 2 | Simulation BSW | 上に加えて、通信スタックや診断などを模擬した基盤ソフト。バス・ネットワークのレベルで通信できる |
| Level 3 | Production BSW | アプリケーションに加えて、ハードウェアに依存しない量産の基盤ソフトまで含む |
| Level 4 | Target Binary | 実機向けにコンパイルした量産コード(MCAL・OS・複合ドライバなどハードウェア依存層を含む) |
Level 0〜3 は検証用の計算機向けにコンパイルし直して動かすのに対し、Level 4 は実機向けのバイナリをそのまま動かす。このため Level 4 の実行には、対象マイコンの命令を再現する命令セットシミュレータが必要になる。同文書は、Level 4 では実機用コードからの変更が「ほぼ不要」としている。
一部のツールベンダーは Level 4 をさらに細かく分けて呼んでいるが、これは各社の拡張であり、業界の合意ではない。社内外で仮想ECUの段階を議論するときは、どの定義に拠っているかを明示するのが安全である。
SDVにおける位置づけ
仮想ECUは、ソフトウェア・デファインドな車の開発で、実機の試作品がそろう前からソフトを検証するための土台である。OTAで更新を出し続ける体制では、更新のたびに大量の回帰試験を回す必要があり、実機ベンチの台数がそのまま検証の上限になる。仮想ECUはこの制約を外し、試験をクラウドで並列に回せるようにする。
2026年10月時点の産業報告(自動車技術会 2026年秋季大会)には、その効果を数字で示す例がある。Hyundai Autoever は、Level 4 の仮想ECUで4,632件のテストをクラウド上で並列実行した。並列化の妨げになるテスト間の依存関係を3つに分けたところ、完全に独立した試験が76.3%、特定の状態を前提とする試験が16.2%、実行順序を守る必要がある試験が7.4%だった。同社の別の報告では、ASIL-B の駆動制御を対象にした故障注入730件のうち378件(51.8%)が、実機では実施できず仮想ECUでのみ実施できた。
一方で、仮想ECUの結果をそのまま安全の証拠にできるわけではない。機能安全規格 ISO 26262 は、検証に使うソフトウェアツールが誤った結果を出しうることを前提に、ツールへの信頼性を論証するよう求めている(第8部 第11節)。仮想ECUや命令セットシミュレータで得た合否を証拠に使うなら、その再現の確かさを実機との突き合わせなどで示す必要がある。検証全体の中での役割は、検証の階層(MIL/SIL/PIL/HIL/VIL)を参照してほしい。
関連用語
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カテゴリ: 車載OS・基盤
出典・一次情報
- prostep ivip, SmartSE Recommendation 2025 PSI 11 V4.0 "Part F – Virtual Electronic Control Units" (Level 0(Controller Model)〜Level 4(Target Binary)の定義。Level 4 の実行に命令セットシミュレーションが必要で、実機用コードからの変更はほぼ不要とする記述) — 2025-05 Version 4.0・原文で照合済・2026-10-17
- Daeki Kim ほか(Hyundai Autoever・Hyundai Motor)「Development of a Parallel Level 4 Virtual Electronic Controller Unit Verification Platform Based on Cloud Infrastructure」自動車技術会 2026年秋季大会 学術講演会 講演予稿集 (文献番号 20266074(講演No.74)— Level 4 vECU で 4,632件をクラウド並列実行。依存関係で3分類(完全独立76.3%/条件依存16.2%/順序必須7.4%)) — 講演 2026-10-14・予稿で照合済・2026-10-17
- Youngmo Lee ほか(Hyundai Autoever)「Intelligent Fault Injection Scenario Generation Using Level 4 Virtual Electronic Controller Unit and Verification Efficiency Enhancement」自動車技術会 2026年秋季大会 学術講演会 講演予稿集 (文献番号 20266075(講演No.75)— ASIL-B の駆動制御(AUTOSAR、TC397)で故障注入730件、うち378件(51.8%)は仮想ECUでのみ実施可能) — 講演 2026-10-14・予稿で照合済・2026-10-17
- ISO 26262-8:2018 Clause 11 "Confidence in the use of software tools"(規格本体・有償) (ソフトウェアツールの信頼性。仮想ECUを証拠の生成に使う場合の論証の枠組み(本文は有償のため未照合)) — ISO標準ページで存在確認・2026-10-17