仮想ホモロゲーションとは — EU 2022/1426(SCF)とシミュレーション認証

EU 2022/1426は、自動運転車の型式認証において、シミュレーション結果を正式な認証エビデンスとして採用する法的根拠を確立した世界初の規制である。その核であるSCF(シミュレーション信頼性の枠組み)は、「仮想ホモロゲーション」——物理的な実車試験の一部をシミュレーションで代替する認証——を制度として可能にした。本記事は、SCFが何を定めるのか、どの規制の認証に使えるのか、SDV(ソフトウェア・デファインドな車)の認証コストにどう効くのかを整理する。結論を先に言えば、SCFは「規制のデジタル化」の先駆であり、物理試験中心の認証から、シミュレーション中心の認証への移行を制度的に後押しする枠組みである。

仮想ホモロゲーションとは何か

仮想ホモロゲーションとは、実車試験の一部を、信頼性が担保されたシミュレーションで代替して型式認証を進める手法である。その法的根拠がEU 2022/1426(2022年採択)であり、シミュレーション結果を認証の証拠として使うための信頼性評価の枠組みがSCFである(出典:EU 2022/1426)。

SCFの4本柱——「そのシミュレーションを信頼してよいか」

SCFは、シミュレーションツールの信頼性を評価するための4つの柱で構成される。

内容
管理シミュレーションのライフサイクル全体を管理するプロセス・権限・体制
分析モデルの精度と、環境由来のばらつき・知識不足由来の誤差の分析
検証シミュレーションソフトの実装が仕様どおりかの検証
妥当性確認現実の実測データとの照合によるモデルの妥当性確認

この4本柱が、「シミュレーション結果を信頼してよいか」を認証当局が判断するための体系的な基準になる。シミュレーションツールのベンダーは、自社ツールがSCFに準拠している証拠をまとめて認証機関に提出する。

どの認証に使えるのか——UN-R157/UN-R171

SCFは、Level 3自動運転のUN-R157(ALKS)や運転支援のUN-R171(DCAS)の型式認証で、物理的な実車試験の「補完」として機能する。たとえば、緊急時に車両を安全に停止させる動作(最小リスク状態(MRC)への移行)の試験の一部を、シミュレーションで代替できる可能性が開かれている。

ただし2026年時点では、仮想ホモロゲーションは「完全な代替」ではなく「部分的な補完」にとどまる。最高水準の認証の最終証拠としては、実物のハードや車両を使う模擬試験(HIL/VIL)が依然として必要で、SCFはテストケース数の拡大や、物理試験では再現しにくいシナリオの検証に使われる位置づけだ。実際に、あるメーカーがOTAでL3機能の速度上限を引き上げ、認証当局の型式認証延長を受けた事例(2024年)は、この枠組みのなかで「OTA更新+型式認証延長」が成立した先行例である。

認証コストへの影響——SDVの事業モデルを支える

仮想ホモロゲーションがSDVにもたらす効果は、認証コストの構造的な削減として現れる。従来の物理的型式試験は数か月の期間と相応のコストを要するが、SCF準拠のシミュレーションベース認証では、多数のシナリオをクラウド上で短期間に検証でき、コストと時間を大きく圧縮できる可能性がある(具体的な金額は事業・規模により異なるため断定しない)。

これはSDVにとって本質的な意味を持つ。OTAで継続的にソフトを更新するSDVでは、「更新のたびに物理試験を繰り返す」モデルは経済的に成り立たない。SCFの枠組みにより、OTA更新に伴う認証を「シミュレーション+差分の実機検証」で完了させる設計が可能になる。これは、販売後に機能を有効化するような事業モデルを規制面から支える基盤になる。

地域ごとの動向

シミュレーション認証への移行は地域で進度が異なる。日本も同様の枠組みを検討中だが法制化には至っておらず、米国は自己認証モデルのなかでシミュレーションベースの安全実証を認める方向に徐々に動いている。中国も独自規制の枠組みのなかで仮想検証の要素を取り込みつつある。EU 2022/1426のSCFは、この「規制のデジタル化」の先駆として参照される。

まとめ:SCFは認証パラダイムの移行を制度化する

SCFの要点は、シミュレーションの信頼性を体系的に評価することで、シミュレーション結果を正式な認証証拠として使えるようにした点にある。SDVプラットフォームにSCF準拠のシミュレーション基盤を組み込むことは、認証コストの構造的最適化に向けた投資になる。自社で具体化する際の論点は次のあたりだ。

ソフト更新の規制はUN-R156とソフトウェア更新管理(SUMS)を、Level 3規制はUN-R157(ALKS)とLevel 3自動運転を、認証機関の役割は型式認証と認証機関の役割をあわせて参照してほしい。自社の対象市場・製品に即した仮想ホモロゲーションの活用は個別性が高く、具体化の段階では外部の視点を入れると論点整理が速い。